2026/8/25|最高裁判所に「特別抗告理由補充書(2)」を提出

― 管財人解任申立てをめぐり、財産権・裁判を受ける権利等の観点から原決定の破棄を求める ―

令和8年8月18日、株式会社トーシンホールディングスの会社更生事件に関連し、特別抗告人・石田ゆかり氏の代理人弁護士から、最高裁判所に対して**「特別抗告理由補充書(2)」**が提出されました。

本書面は、令和8年8月1日付の特別抗告理由書の主張を補充するものであり、東京地方裁判所が令和8年7月27日付で行った管財人解任申立てを棄却する決定について、憲法上の問題があるとして、その破棄と更なる裁判を求めるものです。

本記事では、今回提出された書面でどのような問題が指摘されているのか、その主な内容をご説明します。

1.今回の補充書提出の背景

対象となっているのは、東京地方裁判所民事第20部に係属する株式会社トーシンホールディングスの会社更生事件です。

特別抗告人側は、管財人の解任を申し立てていましたが、東京地方裁判所は令和8年7月27日付で、この申立てを棄却しました。

これに対し特別抗告人側は特別抗告を行い、さらに今回、原決定後に管財人から提出された財産評定書等の資料を踏まえ、原決定が妥当であったかについて新たな主張を補充したとしています。

今回の補充書では、単なる事実認定や法律解釈の問題ではなく、原決定に至る手続そのものについて、

  • 憲法第29条第1項「財産権」
  • 憲法第31条「適正手続」
  • 憲法第32条「裁判を受ける権利」

との関係で問題があると主張されています。

2.財産評定の結果として「開始時点で資産超過」が示されたとの主張

今回の補充書で特に重要な論点の一つが、管財人自身が作成したとされる財産評定書の内容です。

補充書によれば、会社更生手続開始時点での帳簿価額による貸借対照表は、

資産合計 153億8,478万5,384円
負債合計 150億4,016万3,862円
純資産合計 3億4,462万1,522円

であったとされています。

さらに財産評定後については、

資産合計 160億2,800万1,449円
負債合計 158億5,050万8,348円
純資産合計 1億5,229万3,101円

であったと記載されています。

つまり特別抗告人側は、管財人自身による財産評定によって、更生手続開始時点で会社が資産超過であったことが示されたと主張しています。

この点は、株主の権利や更生手続の進め方を考えるうえで重要な問題であるとして、今回の補充書で大きく取り上げられています。

3.土地・建物等について「36億円を超える評価差額」を指摘

補充書では、会社が保有する土地・建物等の評価についても詳細な指摘がされています。

書面によると、土地・建物等17物件について、

帳簿価額 111億5,127万6,644円

に対して、

評価額 147億7,850万円

とされ、その評価差額は、

36億2,722万3,356円

に上るとされています。

また、関係会社株式についても評価差額が存在するとされています。

特別抗告人側は、このような評価差額が存在するにもかかわらず、財産評定後の貸借対照表では、資産について減額方向の要素を反映する一方、増額方向の評価差額が反映されていないと指摘しています。

そして、この取扱いについて、

「株主に分配すべき残余の価値を過小に表示する方向にのみ働く」

との問題意識を示しています。

4.更生手続における「株主の権利」が問題になるとの主張

補充書では、一般的な会社更生事件では、会社が債務超過となり株式の経済的価値が失われている場合が想定される一方、本件については事情が異なると主張されています。

特別抗告人側は、管財人自身の財産評定によって開始時点で資産超過であることが示されたのであれば、株主には現実の経済的価値を有する財産権が存在すると主張しています。

さらに、会社更生法第166条第2項の反対解釈から、一定の場合には株主が議決権を有することも、この財産権の存在を裏付けるものだとしています。

そのうえで、株主の財産権を制約することになる更生手続については、株主側に十分な手続保障が必要であるとの立場を示しています。

5.「主張・疎明する機会が与えられなかった」と指摘

今回の補充書では、原決定に至るまでの手続についても強い問題提起がされています。

特別抗告人側は、管財人の公正・中立性という争いのある重要な問題について、抗告人側に十分な主張・疎明の機会が与えられないまま原決定がされたと主張しています。

特に、管財人の解任について会社更生法第68条第2項後段では、解任対象となる管財人の審尋が義務付けられている一方で、解任を申し立てた利害関係人については、法律上、同様の審尋等が明確に定められていない点を指摘しています。

そして本件では、裁判所による抗告人側の審尋や書面による求意見が行われなかったとしています。

特別抗告人側は、仮に抗告人側に審尋等の機会が与えられていれば、財産評定に関する資料の取扱いなどについて説明を求め、その結果を裁判所に提出することも可能であったと主張しています。

6.「管財人の公正・中立性」に関する判断について

東京地方裁判所の原決定では、管財人と更生債権者や株主を含む利害関係人との間で、

「公平かつ中立的に職務を遂行していないということはできない」

との判断が示されたとされています。

しかし特別抗告人側は、この認定について、管財人側から提出された資料を基礎としている一方、抗告人側には十分な主張・疎明の機会が与えられていなかったと指摘しています。

そのため、今回の補充書では、認定内容そのものだけでなく、その認定に至る手続が適正であったのかという点を問題としています。

7.東京地裁と東京高裁で「特別の利害関係」の判断基準が異なると指摘

今回の補充書では、もう一つ重要な問題として、会社法第369条第2項にいう**「特別の利害関係」**の判断基準が取り上げられています。

書面では、同一の取締役会決議をめぐって、

東京地方裁判所の原決定

東京高等裁判所の令和8年7月28日決定

とで、判断の基準が異なっていると指摘しています。

補充書では、両者の違いについて概ね次のように整理しています。

東京地方裁判所は、利益が**「決議事項の中か外か」**という観点を重視し、利益が決議事項の外にある限り、それがどれほど確実なものであっても特別の利害関係を否定する方向の判断をしたとされています。

一方、東京高等裁判所は、取締役が**「どれほど直接に利益を得るか」**という観点から判断し、決議事項の外にある利益であっても、法律上直接に生じるものであれば特別の利害関係を認める余地を残す判断をしたと整理されています。

特別抗告人側は、この二つは単なる表現の違いではなく、適用範囲そのものが異なる別個の判断基準であると主張しています。

8.最高裁判例の「実質的な判断」が必要と主張

補充書では、最高裁昭和44年3月28日判決にも言及しています。

特別抗告人側は、この最高裁判例について、代表取締役の解職決議に際し、その対象となる取締役を特別利害関係取締役としたうえで、

「一切の私心を去って会社に対する忠実義務に従い、公正に議決権を行使することを期待し得るか」

という実質的な観点が重要であるとしています。

これに対し、今回問題となっている東京地裁と東京高裁の判断では、このような実質的な基準による十分な検討を経ないまま、それぞれ異なる形式的な基準によって結論を導いていると主張しています。

そのため、単に二つの裁判所で結論が異なるという問題ではなく、裁判を受ける権利の実質という観点からも検討されるべき問題であるとしています。

9.管財人の公正・中立性は「最後の制度的担保」と主張

補充書では、管財人の公正・中立性について、非常に重要な位置付けがされています。

特別抗告人側は、更生手続によって株主の財産権が制約される中で、

管財人の公正・中立性は、その財産権の制約を正当化するための「最後の制度的担保」である

との考えを示しています。

その管財人の公正・中立性について司法審査を求めたにもかかわらず、抗告人側の手続関与を十分に認めないまま判断されたのであれば、株主の手続保障を欠くことになると主張しています。

また書面では、東京高等裁判所が更生手続開始決定に対する抗告審において、

「株主としての影響力の抑制を図るとともに、株式会社会社ジェットないし石田信文の『株主としての影響力の抑制を図ること』に一定の合理性がある」

旨を示したとされています。

特別抗告人側は、裁判所自身が株主の影響力の抑制を更生手続の機能として認めている以上、その手続における管財人の公正・中立性に対する司法審査では、株主側の手続保障が特に重要になると主張しています。

10.管財人解任を申し立てた側の「届出債権」にも言及

さらに補充書では、管財人の解任を申し立てた抗告人が届け出た債権についても触れています。

書面によれば、抗告人が届け出た損害賠償金1,100万円の債権について、管財人がその全額を認めない旨の認否をしたとされています。

特別抗告人側は、

「自らの解任を求める者の債権の存在を、解任を求められた管財人自身が判断する」

という利益相反の問題が既に現実化していると主張しています。

11.最高裁判所に求めている判断

今回の特別抗告理由補充書(2)では、以上の事情から、原決定について、

憲法第29条第1項
憲法第31条
憲法第32条

に違反するとの主張がされています。

そして最後に、

「原決定には憲法第32条、第31条及び第29条第1項の違反があり、破棄を免れない。速やかに原決定を破棄し、更に相当の裁判をされたい。」

として、最高裁判所に原決定の破棄を求めています。

当委員会として今後も経過をお知らせします

今回の「特別抗告理由補充書(2)」では、管財人解任の当否だけではなく、

会社の財産価値がどのように評価されているのか

資産超過とされる状況において株主の権利をどのように扱うべきなのか

管財人の公正・中立性についてどのような司法審査が行われるべきなのか

株主・利害関係人に十分な手続参加の機会が保障されているのか

といった、現在の会社更生手続に関わる重要な問題が提起されています。

特に、管財人自身の財産評定を前提として更生手続開始時点で資産超過であったとする主張や、土地・建物等について36億円を超える評価差額が指摘されている点は、今後の更生手続と株主の権利を考えるうえで重要な論点の一つです。

トーシンホールディングス企業価値保全委員会では、今後も裁判所における手続や提出書面等を確認しながら、株主の皆様に関係する重要な情報について、随時お知らせしてまいります。

【ご注意】

本記事は、令和8年8月18日付「特別抗告理由補充書(2)」の内容を、株主の皆様に分かりやすくお伝えすることを目的として整理したものです。

記事中の事実関係、法的評価、憲法違反等に関する記載には、特別抗告人およびその代理人が裁判手続において主張している内容が含まれており、裁判所によって確定的に認定・判断された内容を示すものではありません。

今後の裁判所の判断その他の手続の進行によって、内容が変更される可能性があります。

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