― 東京高裁の更生手続開始決定に対し、憲法上・法律解釈上の両面から最高裁の判断を求める ―
令和8年8月24日、株式会社トーシンホールディングスの会社更生事件について、申立人(抗告人)石田ゆかり氏の代理人弁護士から、
「特別抗告理由書」
および
「抗告許可申立て理由書」
の2つの書面が提出されました。
今回の2書面は、東京高等裁判所が令和8年7月28日付で行った、更生手続開始決定に対する抗告を棄却する決定について、最高裁判所の判断を求めるためのものです。
2つの書面は同じ東京高裁決定を対象としていますが、その法的なアプローチが異なります。
「特別抗告理由書」では、主として憲法上保障された権利との関係から東京高裁決定の問題点を主張しています。
一方、「抗告許可申立て理由書」では、会社法や会社更生法などについて重要な法律解釈上の問題が存在するとして、最高裁判所による判断を求めています。
1.今回争われている「更生手続開始決定」
株式会社トーシンホールディングスについては、東京地方裁判所において更生手続開始決定がなされました。
これに対して抗告が行われましたが、東京高等裁判所は令和8年7月28日付で抗告を棄却しました。
今回の2書面は、この東京高裁の7月28日決定をさらに最高裁判所で争うために提出されたものです。
したがって、先にお知らせした8月18日付「特別抗告理由補充書(2)」が主として管財人解任申立てを棄却した決定を対象としていたのに対し、今回の2書面では、会社更生手続そのものの開始決定が主要な対象となっています。
2.二つの手続で最高裁判所の判断を求める
今回の特徴は、一つの東京高裁決定について、
① 特別抗告
と
② 抗告許可申立て
という異なる二つの方法から最高裁判所の判断を求めている点です。
「特別抗告理由書」では、東京高裁決定について、
憲法第32条(裁判を受ける権利)
憲法第29条第1項(財産権)
憲法第31条(適正手続)
などとの関係から問題があると主張しています。
これに対し「抗告許可申立て理由書」では、最高裁判例との関係や、会社法第369条第2項、会社更生法第41条第1項第4号、第17条第1項第1号などの解釈について、最高裁判所による統一的な判断が必要であると主張しています。
つまり、今回の申立てでは、
「憲法上の問題」
と
「法律解釈上の重要な問題」
という二つの側面から、東京高裁決定を最高裁判所で審理するよう求めていることになります。
3.重要論点① 管財人候補者の「特別の利害関係」
今回の2書面で大きな論点となっているのが、管財人候補者とされた取締役についての**「特別の利害関係」**です。
会社法第369条第2項では、取締役会決議について「特別の利害関係を有する取締役」は議決に加わることができないとされています。
問題となっているのは、管財人候補者となる取締役自身が関係する取締役会決議について、どのような場合に「特別の利害関係」が認められるのかという点です。
抗告許可申立て理由書では、この問題について最高裁昭和44年3月28日判決を取り上げています。
同書面では、最高裁判例が、
取締役が一切の私心を去って会社に対する忠実義務に従い、公正に議決権を行使することを期待できるか
という実質的な観点から判断しているとの立場を示しています。
そのうえで、今回の決定で採用された判断基準が、この最高裁判例の考え方と整合しているのかについて、最高裁判所による判断が必要だと主張しています。
4.東京地裁と東京高裁で異なる「特別利害関係」の判断
書面では、同じ取締役会決議をめぐり、東京地方裁判所と東京高等裁判所が異なる判断基準を用いている点も問題とされています。
抗告人側の整理によれば、東京地方裁判所は、
利益の「対象」が決議事項の内側にあるのか、外側にあるのか
という観点を重視したとされています。
これに対し東京高等裁判所は、
取締役が利益を「直接」得るのかどうか
という観点から判断したとされています。
抗告人側は、この違いについて単なる言葉の違いではなく、実際に適用される範囲が異なる別の判断基準であると指摘しています。
そして、同一の会社・同一の取締役会決議について、裁判所ごとに異なる基準によって判断が行われる状況は、会社法第369条第2項の解釈を考えるうえでも重要な問題であるとしています。
5.管財人候補者自身が議決に参加したことの問題
書面では、管財人候補者自身が、自らを管財人候補者とすることに関係する取締役会決議に参加した点についても問題提起がされています。
抗告許可申立て理由書では、管財人候補者として選定されることにより、その後、裁判所から管財人に選任された場合には報酬を受ける立場となることなどを踏まえ、これが会社法上の「特別の利害関係」に該当しないのかが論じられています。
さらに、単純に金銭的利益だけを見るのではなく、
会社の経営を離れる側と、管財人として会社経営に関与する側との間に利害の対立が存在し得るのではないか
という観点からも問題が提起されています。
抗告人側は、この問題について形式的な判断ではなく、最高裁判例に照らした実質的な判断が必要だと主張しています。
6.重要論点② 株主の「裁判を受ける権利」
特別抗告理由書では、更生手続開始決定によって株主が受ける影響と、憲法第32条が保障する**「裁判を受ける権利」**との関係が大きく取り上げられています。
会社更生手続が開始されれば、会社の事業経営や財産の管理・処分について管財人が大きな権限を持つことになります。
その結果、株主が従来有していた会社経営への関与や株式に基づく権利についても大きな影響を受ける可能性があります。
抗告人側は、このように株主の財産権や会社経営への関与に重大な影響を与える手続である以上、その判断過程では株主側にも実質的な手続保障が必要であると主張しています。
7.非訟事件であっても「手続保障」が必要との主張
特別抗告理由書では、更生手続が通常の訴訟とは異なる「非訟事件」であることについても論じられています。
抗告人側は、非訟事件だからといって当事者の手続保障が不要になるわけではなく、その手続によって財産権等に重大な影響を受ける場合には、
告知
弁解
防御
などの機会が保障される必要があるとの考えを示しています。
特に会社更生手続では、開始決定によって株主や取締役などの権利関係が大きく変化するため、その判断に際して適切な手続参加の機会が保障されなければならないと主張しています。
8.「審尋の機会が十分に与えられなかった」との主張
特別抗告理由書では、本件の手続経過についても具体的な問題が指摘されています。
書面によれば、原審では抗告人が審尋期日の指定を明示的に求めていたにもかかわらず、審尋期日が指定されなかったとされています。
また、抗告人側が複数の論点について主張していたにもかかわらず、十分な主張・疎明の機会がないまま判断が行われたとの主張がされています。
抗告人側は、単に書面を提出できたというだけでは十分ではなく、
裁判所が判断しようとしている重要な争点について、当事者が実質的に主張・疎明できる機会が保障される必要がある
との立場を示しています。
9.重要論点③ 会社更生法上の「不当な目的」とは何か
抗告許可申立て理由書では、会社更生法第41条第1項第4号に規定される**「不当な目的」**の解釈も重要な争点として取り上げられています。
東京高裁決定では、本件について、更生手続開始申立てが会社更生法上の「不当な目的」によるものとは認められないとの判断が示されたとされています。
これに対し抗告人側は、会社更生手続が、
特定の株主の影響力を抑制すること
を目的として利用される場合に、それが「不当な目的」に該当するのかという法律上の問題を提起しています。
抗告人側は、会社更生手続は本来、会社の再建や債権者等の利害調整のための制度であり、株主の影響力を排除・抑制すること自体を目的として利用することが許されるのかについて、最高裁判所による法解釈が必要であると主張しています。
10.株主総会による解任との関係も問題提起
抗告許可申立て理由書では、会社更生手続開始申立てと株主総会との時間的な関係についても論じられています。
抗告人側は、臨時株主総会による取締役解任等の動きと、更生手続開始申立てとの関係を踏まえ、
更生手続が株主総会による経営者交代を事実上無効化するために利用されたのではないか
という趣旨の問題を提起しています。
そして、このような事情をどのように会社更生法第41条第1項第4号の「不当な目的」の判断に反映させるべきなのかについて、重要な法律問題が存在すると主張しています。
これは今回の抗告許可申立てにおける重要な論点の一つです。
11.重要論点④ 「支払不能が生ずるおそれ」の解釈
抗告許可申立て理由書では、会社更生法第17条第1項第1号の、
「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができない状態が生ずるおそれ」
についても問題が提起されています。
抗告人側は、本件において、この要件を判断する際にどのような事実を基礎とすべきなのか、また、会社の資産状況や資金調達可能性などをどのように評価すべきなのかについて、法律解釈上の問題があると主張しています。
12.財産評定で示された会社の資産状況
今回の特別抗告理由書でも、先に提出された財産評定書の内容が取り上げられています。
書面では、財産評定後の貸借対照表について、
資産合計 160億2,800万1,449円
負債合計 158億5,050万8,348円
純資産合計 1億5,229万3,101円
とされています。
また、土地・建物等について帳簿価額を上回る評価が存在することなども指摘されています。
抗告人側は、こうした事情を踏まえ、本件会社の経済的価値や株主の財産権が現実に存在することを前提として、より慎重な手続保障が必要であると主張しています。
この財産評定については、8月18日付「特別抗告理由補充書(2)」でも詳細に主張されており、今回の書面でも重要な前提事情の一つとして位置付けられています。
13.今回の2書面が最高裁判所に求めていること
今回提出された2書面は、それぞれ異なる法律上のルートから最高裁判所の判断を求めています。
特別抗告理由書
東京高裁決定について、主として、
憲法第32条「裁判を受ける権利」
憲法第29条第1項「財産権」
憲法第31条「適正手続」
に違反すると主張し、原決定を破棄するよう求めています。
抗告許可申立て理由書
一方こちらでは、
会社法第369条第2項「特別の利害関係」
会社更生法第41条第1項第4号「不当な目的」
会社更生法第17条第1項第1号「支払不能が生ずるおそれ」
などについて重要な法律解釈上の問題があるとして、最高裁判所による判断を求めています。
したがって今回の申立ては、
憲法上の権利保障という側面
と
会社法・会社更生法の解釈という側面
の双方から、東京高裁決定について最高裁判所の審理を求めるものとなっています。
14.当委員会として注視しているポイント
今回の2書面では、単に「会社更生手続を開始すべきだったのか」という問題だけではなく、
誰が、どのような手続で管財人候補者の選定に関与したのか
管財人候補者に「特別の利害関係」が存在する場合、どのように判断すべきなのか
会社更生手続によって重大な影響を受ける株主に、どこまで手続参加の機会を保障すべきなのか
株主の影響力を抑制する目的と会社更生法上の「不当な目的」との関係をどう考えるのか
会社の実際の資産状況を踏まえて、更生手続開始の必要性をどのように判断するのか
といった、会社更生手続の根幹に関わる問題が提起されています。
特に今回、同じ東京高裁決定に対して「特別抗告」と「抗告許可申立て」という二つの手続が取られたことは、これらの問題について、憲法上の観点と法律解釈上の観点の双方から最高裁判所の判断を求めていることを意味します。
トーシンホールディングス企業価値保全委員会では、最高裁判所における今後の手続を注視し、株主の皆様に関係する重要な動きについて、引き続きお知らせしてまいります。
【ご注意】
本記事は、令和8年8月24日付「特別抗告理由書」および「抗告許可申立て理由書」の内容を、株主の皆様に分かりやすくお伝えするために整理したものです。
記事中に記載した事実関係、法的評価、憲法違反、法律解釈等については、申立人(抗告人)およびその代理人が裁判手続において主張している内容が含まれています。
これらは、最高裁判所その他の裁判所によって最終的に認定・判断された内容を示すものではありません。
今後の裁判所の判断その他の手続の進行によって、内容が変更される可能性があります。